摩擦再燃の火種を抱えながら、自動車大国・米国で新たな一歩を踏み出したトヨタの動きを現地で探った。
「テキサスの開拓精神に感銘を受けた。
ここで最高のピックアップトラック造りをできることを誇りに思う」新しいペンキのにおいがかすかに残る工場内。
生産開始を祝う式典でW・Yトヨタ自動車社長があいさつすると、会場を埋めた千八百人の米国人従業員から歓声がわき起こった。
工場が立地するテキサス州サンアントニオはメキシコ国境まで百五十キロ足らず。
西部開拓時代の面影を残す街並みと「米国人である前にテキサス人であれ」と説く風土は、自主・独立を重んじる米国人の心の古里として年間約一千万人が集まる全米有数の観光地だ。
工場から車で北に三十分ほど走った街の中心部。
一八三六年、旧宗主国・メキシコの正規軍と激戦を繰り広げた「アラモの砦」の中庭に、「アラモは日本の長篠。
長篠は日本のアラモ」との思いを込めて詠まれた漢詩の石碑がひっそりとたたずむ。
九十年以上前、この地を訪れた愛知しげたか県岡崎市出身の地理学者、志賀重白印(一八六四九二七年)が祖国のためにわが身を犠牲にしたアラモの史実に感動。
主君のためには死をも恐れない三河武士の忠義と団結力が語り継がれる長篠の戦い(一五七五年、愛知県新城市)を引き合いに「その心意気に東西の別はない」と、帰国後に自作の漢詩を彫った石碑を贈った。
三河から世界へ羽ばたいたトヨタが今回、歴史の細い糸をたどるようにテキサスへ進出した。
広大な牧場跡に建つ最新鋭の工場で、米国以外ではほとんどなじみのないピックアップを生産する。
日本車の強みである高品質と低燃費を武器に、トヨタは小型車や高級乗用車などで販売を伸ばしてきた。
しかし、保守的な地盤の中西部や南部で人気のピックアップは、大きな車体や力強さなどが魅力。
この分野を最も得意とするビッグスリーと「アメリカらしさ」を競い合うことになる。
初の対米進出となった米ゼネラル・モーターズ(GM)との合弁工場「NUMMI」が稼働した一九八四年からニ十年余り。
トヨタはこの間、カナダ、メキシコを含む北米での現地生産を拡大、六番目の車両組立工場となるテキサスを合わせると、生産能力は年間百七十五万台以上に増えた。
北米での直接雇用は約四万人、関連する部品メーカーや販売店などの間接雇用を含めれば約四十万人に達した。
効率的なトヨタ生産方式は今や世界展開する米軍が物資補給や調達手法として取り入れるなど米国社会に根を下ろしつつある。
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